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                 蟹付釉下彩琅玕釉花瓶

     
高     さ   18.5㎝
     
製 作 年   明治37年頃~大正5年頃
     
時代区分   釉下彩後期
     
収 納 箱   識箱
     

所   蔵

 

山本博士 (宮川香山
  眞葛ミュージアム保管)

     
高     さ   18.8㎝
     
製 作 年   明治37年頃~大正5年頃
     
時代区分   釉下彩後期
     
収 納 箱   共箱 なし
     

所   蔵

 

個人蔵


蟹付釉下彩花瓶


                                            
        

宮川香山 香山名品の検証

 解説  関 和男

          
                        

 ここで紹介する蟹貼付台鉢は2作品(以下蟹1作品・蟹2作品という)である。(以下両作品という)両作品ともにそれら器銘からして明治33年パリ万博以降に製作された釉下彩作品である。なお、香山は明治34年日美展に磁製色釉蟹付花瓶を出品しているが、伝世を確認できない。

香山で蟹貼付作品と言えば、明治14年第2回内国博に出品された東博所蔵の陶器褐釉高浮彫蟹貼付鉢(以下高浮彫蟹台鉢という)を一瞬に浮かぶ。その蟹は色絵である。他にその復刻版が伝世している。それは蟹が釉下彩であるが、復刻版ゆえ本検証外となした。

本項では両作品と高浮彫蟹台鉢と比較して論評する。両作品と高浮彫蟹台鉢はともに器形は下部が小さくし、高台的な器形でもって、器そのものに格をもたせる。その上部の一端に蟹を貼り付けている。

蟹作品は、その外面が香山名称「琅玕釉」を全面に施している。それは暗緑色の釉である。この釉薬は明治35年開発された。香山後期を代表する釉である。器の内面は瑠璃釉が全面にほどこされている。旧時代の瑠璃釉と新開発の琅玕釉とを背景地として明治釉下彩の蟹を浮かしている。それは蟹を挟んで外面の緑色と内面の瑠璃色でもって静的な水辺と見立てたのであろう。小さな蟹が水ぎわを動き回る様を連想さす。一種の心象的風景である。そこでは蟹の赤味を帯びた爪が絵的ワンポイントとして効果的表現である。

 香山は、日本特有の美しいものを製作するという。蟹1作品は、それと一致する。このモノトーンに近い、静的で小さな世界は日本の美そのものである。そこには普遍的日本の美が存在する。日本人が好んだ心象風景を小さな鉢に託した名品である。明治釉下彩でそれを表現した明治陶磁を代表する作品である。

 蟹2作品は、すべてが釉下彩で描かれている。おもだかの花が咲く、初夏を描いている。濃い染付により画面に落着きをもたせた。白い花でなく黄色に変え、アクセントを加えている。蟹に釉下彩黄色を用い、そのつめの紅色が濃くしながらも ぼかして、効果を出している。前述のとおり、釉下彩絵具のうち黄色は最終的開発された絵具であり、それが効果的である。

 蟹2作品は蟹の配色も、蟹1作品のそば釉の蟹と異なり、明るさを増し、その色のハーモニーは絶妙である。そこには香山特有のバター臭さが消えている。この洗練された文様は高度な釉下彩技術でもって成り立っている。香山ひいては明治釉下彩がもちえた高い技術・技巧でなした近代的な粋を感じる。それは欧米文化・技術と日本の美が融合し、新しい和風の美を引き出している。最も釉下彩らしい、かつ、季節を感じさせる作品である。近代の日本美を表現した逸品である。

 前述のとおり、明治14年、香山は「高浮彫付台鉢」を内国博に出品した。現代、重要文化財に指定されている。その当時、香山は、高浮彫と称する、貿易陶器を製作していた。それは人・鳥・虫等の細工物を器面に多数貼りつけ、装飾した。資料11作品は、その展覧会向け国内版と言える。その造型・表現力は香山ならのものである。香山初期を代表する作品である。しかし、そこには、明治が新たに取りいれた陶磁器技術がない。明治が求めた欧米文化の香りもない。根本的に日本的情趣がない。その追力のすごさは「超絶技巧」の言葉どおりであり、その造形は抜きんでている。しかし、その美的要素は日本的美とずれている。あるのは国内向け趣向に変えても、欧米好みに合せた造形である。それが「超絶技巧」の世界である。

 高浮彫蟹作品は明治前半の輸出陶磁全盛期時代を象徴する作品である。明治陶磁史に残る代表作品であるが、明治陶芸美術における美の極致でない。

 明治10年代中頃、高浮彫作品は低調となり、眞葛窯の経営が悪化したという。その頃から香山は和漢の陶磁器の研究をした。釉薬・作風等の大変革をなし、釉下彩が香山の主力の一つとなった。更に、明治33年パリ万国博以降も、香山は積極的に技術、スタイルの改良、変化を求めている。この流れの中で両作品が創り出された。この釉下彩蟹文様は明治の新しい技術・文化で日本の美を表現している。

なお、器に小物を貼付けるのはそれら作品だけでない。資料1蟹貼付皿作品は香山が明治14年第2回内国博に時に上野の土で作った蟹貼付皿である。京焼的作品である。この貼り付け技法は他の陶芸家もよく使っている。コペンハーゲンでも各種蟹付作品を製作している(資料2)資料2作品は現代作品に近く、両作品と比較できない部分がある。

    
   
                   
                   
          資料 1 明治14年香山作皿         
  資料 2 コペンハーゲン皿     
          所蔵 山本博士コレクション           
  所蔵 Kコレクション     
          (宮川香山  眞葛ミュージアム保管)         
                   
                   
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